2011/10/08

AXGPは本当にTD-LTEそのものなのか

AXGPがSoftBank 4Gとしていよいよ稼働しようとしている。
TD-LTEと100%互換があるとされ、理論値は下り110Mbps、上り15Mbpsだそうだ。
しかし、ネット世論的には、批判的な論調が多いようだ。

運営会社であるWCPの経営母体がSoftBankということで、SoftBank 3Gの惨状や強引な経営手法といったこれまでの実績から考えると、その評判も分からなくもない。
実際、個人的には、SoftBank自体を好意的な目で見ることはできない。
でもそれにしても、AXGPについてはちょっと悪く言われすぎなんじゃないかと感じているのでその思いをまとめてみる。技術的には専門家でもなんでもないんで眉唾程度で聞いて欲しい。

批判の的になっている最大の点は、XGPという規格を捨ててTD-LTEに変えてしまったというものだろう。曰く、周波数割り当ての名目上「XGP」という名前だけは残して、その実中身はTD-LTEそのものであると。XGP規格を、拡張と言いつつTD-LTEに強引にすげ替えてしまったと。騙し討ちだ。詐欺だと。
だがそうだろうか。いくらなんでも別の規格への変更が認められるわけがないだろう。
XGPとして認められた規格を逸脱しない範囲で、TD-LTEとの互換性を確保することができるように(言いつつすげ替えたというレベルではなく純粋に)拡張した、と考えたほうが自然だ。
え?同じことだろ?と思われるかもしれないが、そんなことはなく大きく違う。
それは、TD-LTEそのものに変えてしまったということではなく、AXGPはTD-LTEを内包する規格である、と言えるからだ。言い替えれば、AXGPはTD-LTEの上位規格なのである。
今回はたまたま、というか、さまざまな情勢から、TD-LTEそのもの同然のモードでAXGPを運用する決定をしたのだろう。

このことを示唆する状況証拠は複数ある。

1つ目は、ハードウェアはTD-LTEのものをそのまま使っているが、ソフトウェアは変更しているとの言及がなされていることだ。面倒なのでソースは示さないが、複数のニュースソースで確認している。たしかケータイWatchあたりの記事でも述べられていたように思う。
TD-LTEそのものだとしたらわざわざソフトウェアを変更する必要などないわけで、世界的にも稀な「TDDシステムの長期運用実績とその拡張・改善技術」を持つWILLCOM独自のノウハウが盛り込まれているであろうことは想像に難くない。

2つ目は、AXGPは20MHz幅で運用されるという事実である。
セルシステムは、隣接セルの干渉を最小限に抑えるよう、正六角形のセルをきれいに敷き詰める形でセル設計するのが常識となっている。隣接するセル同士は、干渉しないように違う周波数帯を使うようにするのが一般的だ。セルが正六角形だとしたら3種類あれば同じものが隣接せずにすむというので、割り当てられた周波数帯を3つに分け、その3つを使い分けてセル配置していく。これは、3Gでも、LTEでもWiMAXでもTD-LTEでも同じ話である。
PHSとXGPは例外で、隣接セルと使用する周波数帯を調整する、いわゆる自律分散機能(と、その機能が有効に動くためのスマートアンテナ技術と空間多重制御技術)が実装されているので、そのようなセル設計をする必要がない。
さて、現状、UQ WiMAXには30MHz幅の周波数帯が割り当てられており、前述の話のように、10MHz幅×3に分割してセル配置しているはずである。
一方、AXGPについても周波数帯の割り当ては30MHz幅(当初使用可能なのは20MHz幅だけだったような気もする)だが、その状況で20MHz幅で運用するということは、上で言ったようなセル設計はしないということを意味すると取れる。それは、PHS・XGP由来の自律分散機能があるからだ、と言えるのではないだろうか。

以上のことから、「AXGP=TD-LTEそのもの」ではないだろうと考察している。

次の批判ポイントは、下りと上りの速度が非対称となった点だろう。
XGPは下りと上りの速度が対称だったし、また、それを売りにしていた節もある。
そのくせAXGPになったら非対称かよ、当初の志はどこへいったんだよ、ガッカリだよ、といったところだろうか。
その思いは実によく分かる。が、ちょっと待って欲しい。

まず、上下非対称といっても、AXGPの上り速度は15Mbpsである。XGPは20Mbpsだったのだから、実効速度としてはさほど変わりのないレベルではないだろうか。
そもそも、上り速度ということを考えるにあたっては、端末側の能力も考える必要がある。モバイル端末となれば最高にパワフルということはないので、そこに高速でデータを送出する能力を期待するというのも、少々難のある話である。
実際、他の通信方式でも、下りが太く上りが細いというのが一般的だ。
また、余談となってしまうが、PHSでW-OAM Type AGという上下非対称化した規格で下り800kbpsとの構想があった際には、多くのWILLCOMユーザは大いに期待したはずだ。結局実現はしなかったが。

そうは言っても、他に類を見ない上り速度というところに未来的な何かを感じていたのに、という失望感が大きいんだよと言われるかもしれない。
だが、TD-LTEは、そもそも上下の比率を柔軟に変更できる規格である。
当然のことながらAXGPも、上下の比率は可変であると規格に明記されている。決して、下り重視の上下非対称でなくてはならないなどとは規定されていない。つまり、XGPのように上下対称にもできるし、なんなら上りのほうが速いようにだってできるようになっている。
よって、上下同時の通信でなければ、ある時は下り100Mbps、状況により上り100Mbpsに切り替える、といった、実質上下100Mbpsということすら可能と思われるのだ。

であれば、失望する理由などないではないか。

SoftBankがそんなこと考えているとは思えない。世界標準規格のTD-LTE設備を安く導入して設備投資費を浮かすことしか考えてないに違いない。だって金儲けのことしか考えてないじゃん。
そうかもしれない。
しかし、金儲けという観点で考えれば、もっとはるかに大きく儲けることができる方法がある。
それは、旧ウィルコム現WCP独自技術をTD-LTEに入れてしまい、権利関係で儲けるという道である。
AXGPはTD-LTEの上位規格と言えるのではと考察したが、今度はその「上位」の部分、つまりPHS・XGP由来の自律分散制御などがTD-LTEに採用され、名実ともにAXGP=TD-LTEとなってしまえば、単純に技術使用料収入で儲けるということ以上にビジネス上のメリットは計り知れないだろう。
TDD推進団体などの活動もしているようだし、ネットワークトラフィックが爆発的に増加する中、周波数利用効率を上げ回線容量を確保する手段として自律分散などの技術は今後必須かつ重要度が非常に高い技術であり、そこまで見越して動いていると考えてもさほど大げさな話ではない。

自律分散などなくセル設計などお構いなしに基地局を建てまくるのでは?
今まさにそれが原因で3Gで苦戦しているSoftBank自身がそれは望んでいないだろう。
それ以上に、WILLCOMから引き継いだ生粋の技術集団であるWCPが、そのような状況を甘受するとはとても思えない。
きっと、きっと
「ウィルコムのXGP」という名前は消えても、技術は世界に羽ばたいていくに違いない。
希望を込めて。
AXGPの発展を心より祈ります。

なお、冒頭にも記した通り、SoftBankを擁護するなどという意図はまったくないので、そこだけは誤解なきよう。

0 件のコメント:

コメントを投稿